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東京高等裁判所 昭和34年(ラク)365号 決定

抗告人 渡辺寿

主文

本件抗告を却下する。

理由

抗告人は、「原決定を取消し、本件上告は適法であるからこれを受理する。」旨の裁判を求め、その理由として別紙添付の抗告理由書記載のとおり主張した。

本件抗告状には「即時抗告の申立」と題し、前記当裁判所の決定に対し即時抗告をする旨記載されているが、裁判所法第七条の解釈上、高等裁判所がなした決定に対しては、憲法違反を主張して民事訴訟法第四一九条ノ二による外、抗告をなすことはできないものといわなければならない。それなのに抗告人の本件抗告理由は何等憲法違反の点について論及していない。

よつて、本件抗告は不適法であるから、民事訴訟法第四一九条ノ三、第三九九条第一項第一号によつてこれを却下すべきものとし主文のとおり決定する。

なお、抗告人は当裁判所に対し、昭和三十四年十二月二十八日、別紙添付のような「訴訟行為追完の申立」と題する書面を提出して、別紙抗告理由書四ないし八記載の事実と同一のことを主張しているから、特にこの点について左記に判断する。

本件記録によると次の諸事実を認めることができる。すなわち、本件第二審判決は昭和三十四年十一月二十八日言渡され、同年十二月四日上告人にその正本が送達された。上告人は右判決に対する上告状を同月十七日午前八時から同十二時までの間に千葉県旭市の旭郵便局で書留速達郵便に付して当裁判所宛送付した。右上告状は同月十九日退庁時刻後に当裁判所当直室へ配達された。当裁判所は同月二十六日、右上告は上告期間経過後に提起されたもので不適法であるとして、これを却下する決定をなし、右決定は同月二十九日上告人に送達された。上告人は右決定のなされた後でその送達前である同月二十八日右訴訟行為追完の申立をなした。

右認定の事実によれば、本件上告の提起期間は昭和三十四年十二月十八日までであり、したがつて、本件上告状は右上告提起期間の最終日までに当裁判所に到達しないで、その翌日到達したものといわなければならない。

控訴人主張のように、通常千葉県旭市内の郵便局で午前十二時までに速達郵便に付するとおそくとも翌日当裁判所に配達されるものであるとするならば、本件上告状が速達郵便に付された翌々日の退庁時刻後に配達されたのは通常よりも一日以上おくれたものといわなければならない。また、当時全逓の争議中であつてこのため郵便物が遅延していたことは公知の事実であるから、右のように本件上告状が一日おくれて提出されたのは右ストの影響によるものであつて、上告人の責に帰することのできないものであり、上告人は訴訟行為の追完をなすことができるといえるであろう。

しかしながら、現行民事訴訟法は、旧法の原状回復の申立のように独立の追究の申立を認めていないので、通常の場合は、本来の訴訟行為をすると同時に当事者の責に帰することのできない事由によつて不変期間を遵守することができなかつたことと、右の事由がいつ止んだかを主張しかつ立証する必要がある。しかし、上告状が郵便遅延のため延着したような場合には、追完すべき訴訟行為は上告状の提出であるから重ねてこれをなすことを要しないのは当然であるから、追完の主張だけを別に準備書面に記載して裁判所に提出しかつその主張事実を立証すればたりるのである。しかしながら、この場合においても追完すべき訴訟行為とはなれて別個の独立した追完の申立が認められているわけではないから、その申立の必要上、追完すべき訴訟行為についての裁判がなされるまでに追完の主張がなされなければならないのである。

本件の場合でも、抗告人は上記認定のように、抗告人の発送した上告状がストによつて上告期間内に当裁判所に到達しないかも解らないことは当然これを知り、少くともこれを知り得べかりしものであつた。それだから抗告人は上告状がいつ当裁判所に到達したかを調査し、その当時直ちに上記のような訴訟追完の主張をなせば、当裁判所は上告却下の決定をなさなくてすんだわけである。それなのに、抗告人が提出した右追加申立書が当裁判所に提出されたのは、昭和三十四年十二月二十八日である。従つて当裁判所が抗告人の上告を決定で却下したのは昭和三十四年十二月二十六日であるから、右決定は適法であると共に、抗告人の右追完の申出はその余の点についての判断をするまでもなく許されないものといわなければならない。よつて、抗告人の主張は全く理由がない。

(裁判官 村松俊夫 伊藤顕信 杉山孝)

抗告理由書

一、抗告人は、東京高等裁判所昭和三十三年(ネ)第一、四八六号裁決取消請求控訴事件について、昭和三十四年十一月二十八日同裁判所の言渡した判決に対して上告したものである、

二、抗告人が右判決正本の送達を受けたのは同年十二月四日であつて、上告期間は同年十二月十八日迄である、

三、然るに抗告人の提出した上告状は昭和三十四年十二月十九日に東京高等裁判所に到達したので上告期間経過後に提起せられたものとして上告を却下された、

四、然れども抗告人は右上告状を昭和三十四年十二月十八日附とし、同月十七日千葉県旭郵便局に速達書留配達証明郵便として郵送したものである、

五、通常郵便物に於てもその郵便は郵送の翌日到達するのが通常である(前記判決正本も、本件決定正本も郵送の翌日抗告代理人に到達している)にも拘らず上告人はその到達の確実を期し、速達郵便を以て郵送したものであるにも拘らず上告状はその予想に反し郵送の翌々日たる昭和三十四年十二月十九日に到達した、

六、抗告人は右郵送遅延が配達証明書により判明したので昭和三十四年十二月二十二日附を以て、右上告期間の不遵守は上告人の責に帰すべからざる事由によるものなるを以て、同年十二月十九日上告状の到達により追完せられたものなることを認定されるよう申立をしたものであるが、前記の通り上告は却下せられたものである、

七、通常郵便物に於てすら郵送の翌日に到達するのが日常通常とするところであり、特に確実を期して速達を以て郵送した本件上告状が予期に反しその翌々日に到達したことは、正確迅速の尊重せられる現時の社会事情に於ては到底吾人の容認するところではない、

八、然れば、これは民事訴訟法第百五十九条に規定する当事者が其の責に帰すべからざる事由により期間を遵守すること能はざりし場合に該当するから、この郵送遅延という事由は上告状の到達によりその事由が止んだのであるから、上告期間最後の日たる昭和三十四年十二月十八日の翌日たる同年同月十九日提起された上告を以て訴訟行為は追完されたものであるから本件上告は適法である、

訴訟行為追完の申立

一、本件控訴審に於ける判決は昭和三十四年十一月二十八日言渡され、同年十二月四日その正本の送達を受けた。

二、上告人は上告状を上告期間の最終日たる昭和三十四年十二月十八日附とし、同月十七日千葉県旭郵便局に速達、書留配達証明郵便に付し郵送したが、上告期限の翌日たる昭和三十四年十二月十九日到達し、上告期間を遵守することができなかつた、

三、右上告状は通常昭和三十四年十二月十七日か遅くも同月十八日には当然到達すべきに拘らず、その配達遅延の為め同月十九日に到達したもので、この期間の懈怠は上告人の責に帰すべからざる事由に因り上告期間を遵守すること能はざりし場合である、(判決正本は昭和三十四年十二月三日に郵便に付され翌四日到達している)から追完されたものとして上告は適法なる旨の認定をされ度く申立をする次第である、

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